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日時:2016年1月15日(金)14:00~


場所:人文研本館1階 セミナー室1
 

報告:高田実
 

タイトル:大戦間期イギリスにおける社会サービスの成立―「福祉の複合体」の現代的再編と公共精神―

【概要】
20世紀は国家肥大化の時代である。戦争国家と福祉国家が同時拡大し、人びとの生活にとって

国家が抜き差しならない存在になった。今や人びとの生を通り越して、細胞のレベルにまでその影響は及んでいる。

一見、市場主義的グローバリズムのもとで国家の役割が後退するかに見える今日においても、

むしろ国家、特に行政権力はさらに強力になり、人びとの自由な選択の幅をますます狭めている。

国家が極端な自由主義を促進しつつ、その結果生じた不満をナショナリズムによって掬いとろうとしている(「経済的徴
兵制」という言葉すら生まれている)。リベラリズムとナショナリズムが、21世紀的な偏畸的形態のもとに同時進行する

現代史のパラドックスが現出している。
そのなかで、今回の報告では、20世紀の国家の肥大化はどのようにして生まれたのか、再検討してみたい。

「自由放任主義」から国家干渉を肯定的に評価する「新自由主義(New Liberalism)」への変化がどのようにして生じたのか、イギリス史の文脈のなかで考える。具体的な対象とするのは、「福祉の複合体」の再編過程である。

この複合体は、20世紀前半に近代福祉社会的編成から現代福祉国家的編成へと移行するが、その過程を国家福祉の導入と密接に関連しつつ進行した「社会サービス(現代的対人サービス)」の形成をフォローすることで検討したい。
その際、キーワードとなるのは、「公共精神」と「理想主義」である。

J.ハリスは、世紀末の社会理論と国家の関係について次のように記す。

「19世紀初頭の思想および100年後のほとんどの社会思想学派の双方とはきわめて対照的に、後期ヴィクトリア朝とエドワード期イギリスの社会理論家は、ほとんど例外なしに、社会科学の主要な目的は公共の徳(public virtue)の促進にあると確信していた。そして、彼らは道徳性、能動的シティズンシップ、それに『公共精神(public spirit)』が、秩序ある社会と徳に富んだ国家に不可欠な隅の首石であると確信していたのだ」、と(Jose Harris, Private Lives, Public Spirit: Social History of Britain 1870-1914, Oxford University Press, 1993, p. 250)。つまり、個人の危機、社会の危機、国家の危機、帝国の危機が同時進行する19世紀から20世紀初頭にかけて、理想主義が支配する知的環境における新しい「公共善(common weal)」の探求が、より大きく・強い国家とより有機的な福祉社会の建設へと帰結する歴史的なダイナミズムが存在していた。そのプロセスと歴史的意義について、救援ギルド(1903年)や社会サービス全国協議会(1919年)の設立に象徴される「社会サービス」成立の過程を通して、考察してみたい。

【参考文献】
高田実・中野智世編著[2014]『近代ヨーロッパの探求 福祉』ミネルヴァ書房。
高田 実[2014]「生の歴史学と第一次世界大戦」『歴史と経済』224号、35~43頁。
高田 実[2015]「救援ギルドとエルバーフェルト制度―20世紀初頭イギリスにおける『
新しいフィランスロピー』と地方の福祉―」『甲南大学紀要文学編』、165号、241~25
3頁。
西沢保・小峯敦編著[2013]『創設期の厚生経済学と福祉国家』ミネルヴァ書房。
寺尾範野[2014]「初期イギリス社会学と『社会的なるもの』―イギリス福祉国家思想史
の一断面」『社会思想史研究』38, 144~163頁。

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