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◆2016年7月8日(金)、14時から
 

◆場所:京都大学人文科学研究所本館1階 セミナー室1
◆報告:伊藤順二
◆タイトル:石油とコスミズム:ロシアという現代/世界


【概要】
 石油と天然ガスは、ロシア/ソ連にとって少なくとも19世紀後半以降、対外的に重要
な資源であり続けた。ケインズが関わった1922年のManchester Guardian紙の「ヨーロ
ッパにおける復興」特集第4号が、必ずしも資源問題を議論の主対象としていないにも
かかわらず、「ロシア:油田」と題されていたのは偶然ではない。バクー油田の富はア
ゼルバイジャンの文字改革運動を後押しし、油田の状況は社会民主労働党の非合法活動
のよい隠れ家を提供した。
 油田の繁栄は、火力発電を普及させ、現代的電気事業と電磁気学の発展を導いた。20
世紀初頭のロシアにおいて、自然科学上の19世紀的な世界観の没落は、誰よりもまず正
教異端派によって祝福された。カフカスの修行僧に淵源をもつ讃名派の一部は、集合論
を正教的な神の存在証明として信奉しつつ、現代数学上の業績を上げた。アゼルバイジ
ャン生まれのフロレンスキーは電磁気学を神と結びつけた。宇宙工学や遺伝学や言語学
においても、20世紀の科学技術とロシアの思想状況は特異な結びつきを見せている。
 西欧近代に対するズレ、ロシアがそれに自覚的であることが、筆者などの一部の研究
者にとって、ロシアを研究対象とする誘因の一つだったと思われる。同時に、ロシアを
問わず見られた20世紀前半の諸学の再編融合の雰囲気は、紆余曲折を経て今日の人文学
的学問にまで影を投げている。本報告はきわめて素描的なものとなるが、ロシアを通じ
て人文学の限界と可能性について考えることを目指したい。

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