京都大学人文科学研究所 共同研究班
Institute for Research in Humanities, Kyoto University
現代/世界とは何か?―人文学の視点から
What is Modern/World? ― research from the Perspective of Humanities
記
日時:
2016年2月15日(月)14:00〜
場所:
京大人文科学研究所本館3階 セミナー室4(331号室)
発表:
石井 美保
タイトル:
「自然・神霊・人工物のアッサンブラージュ:「近代批判」としての呪術論を超えて」
【要旨】
本発表では、南インドの経済特区における人工物と土地・自然、そして神霊祭祀の布置と連関を検討する。近代的状況における呪術・宗教現象の勃興をテーマとする人類学的研究の多くは、非西欧社会に生きる人々による「モダニティへの疑惑と魅惑の表現」としてこれらの現象を分析してきた。なかでも1980年代以降、非西欧社会における憑依や妖術、精霊祭祀等は、資本主義化やグローバル化の下で周辺化された新興労働者層による隠喩的なモダニティ批判として解釈されてきた。他方、科学技術社会論と人類学において近年、インフラストラクチャーと自然・超自然的存在の連関や、人間と非人間的存在の情動的な関係性に着眼する研究がみられる。これらの研究は、人間ならざるものを含む他者やモノと関係する中で、人々がいかにして自らの環境世界と自己をともに創り出しているのか、という環世界論の問題意識とリンクする。本発表では、マンガロール経済特区という特殊な「近代社会」にみられる人々と工業インフラ・機械、そして神霊の関係について、同地域における農業―祭祀インフラの存在を介した人々と自然、神霊のやりとり(transaction)に着眼して考察する。本発表が明らかにするように、経済特区における神霊祭祀は、自然と人工物、伝統的社会システムとモダニティの分断や対立ではなく、それらの新たな連関や再帰的関係を照射している。儀礼の実践を通して、人々と神霊、人工物と自然を結びつけながら境界づける「やりとりのネットワーク(transactional network)」が経済特区の中に再編成されているが、このことは、外部世界と常に連動しながら伸展し続ける巨大な経済特区の内部にあって、神霊との関係性を主軸として秩序化された新たな環世界が形成されていく過程としてみることができる。
キーワード: モダニティ、自然、インフラストラクチャー、神霊祭祀、経済特区、インド